私と原田さんと赤石さんの3人は、月に何度か他部署の仕事に応援に行く日がある。3人で交代して1人ずつ出向いており、今日は私が応援に行く日だった。
「おはようございます!キャンディさん、ちょっといいですかー?」
朝部屋に着くと、そこの主任である内藤さんが声をかけてきた。
「今年のバレンタインも、みんなでお金を出し合って風間さんにチョコを買うんですけど…キャンディさんたちは今年も参加されますか…?多分3人とも、今年一回も風間さんの顔見てないですよね?昨日そのことに気づいて、なのにお金出していただくのはちょっと申し訳ないなぁと思ってー。」
風間さんというのは、この部署のボスのことだ。毎年バレンタインは、風間さんに女子職員一同でチョコレートを渡している。そこに我々3人も他部署ながら混ざっている。ちなみにうちの部署のボスには毎年何一つあげていない。
今年はコロナの影響で、ここの部署における私たちの業務内容が今までと大きく変わってしまった。そのため、内藤さんの言う通り3人ともこの一年、風間さんと顔を合わせる機会がなくなってしまったのだ。ボスと顔を合わせることがない、、秘密結社状態。加えて本来私たちは、月に数回応援に行ってるだけの他所者。関係性もかなり薄い。
以上のことをふまえて内藤さんは気を遣って声をかけてくれた。
けど実は、私個人としては できればバレンタインに参加したいと思っている。
というのも、風間さんのホワイトデーのお返しは毎年豪華なのだ。参加費は1人200円程度で済むのに対して、ボスは私たち一人一人に1000円くらいの美味しいケーキを買ってきてくれる。
「あ〜確かに風間さんとの関わりは薄くなってますよねぇ〜。でも私たちも一応構成員ではあるので…全然、私個人としては全然参加で、全然いいんですけど…でも私の一存では決められないので、他の2人とも相談してきますね!」
私は、お返しにがっついてると思われたくないけど、なるべく参加の方向に向かうようにしたい…という気持ちを"曖昧な返事"という形で表し、夕方自分の部署に戻って他の2人に聞いた。
キャ「今年も参加でいいですよねー?」
原田「別に負担になる金額じゃないですしね…」
赤石「もしかしてさー、風間さんのお返し代のことを気にしてるのかな?いつも豪華じゃん。うちらなんか200円だし、そこに遠慮するかな?」
キャ「いやー、でもあの人稼いでますし、そんなところ気にしますかね!?」
赤石「まあ…そもそもお返し代が理由だったら、内藤さんの性格ならはっきり言いそうだよね。風間さんの出費が気がかりなんですーって。」
原田「でも確かに、対して顔も合わせてないような職員に一人一人1000円のお返し買うって考えたらちょっと申し訳ないですよね。私たちも全員同じ額あげるならまだしも…」
キャ「参加メンバーが増えるほど風間さんは赤字なんですね…」
結局、お金どうこうよりも 今まで参加していたのを急に辞めるのはちょっと…ということで、今年も例年通り参加することになった。
それにしても、参加人数確認と、大勢からの集金と、チョコを選びに行く手間と、渡す時のサプライズの段取り組みと、貰った人はお返しが大変なのと、この時期はチョコをめぐって様々な気苦労が渦巻き、中には私のようなお返し目当ての輩もいる。そしてバレンタインのせいで、本来アイドルなどになって総選挙に出たりしなければ 一般人は知らなくて済むハズの自分の人気具合も、毎年2/14だけは「チョコの数」として可視化され、童貞たちにいらぬ惨めな思いをさせる。
お菓子業界とショコラティエには悪いけど、バレンタインって結構無駄なイベントかもなと思った。