昼休憩、弁当を持って休憩室にいくと、
「ほら!キャンディたちも、これ食べな!」
と、宮内さんから何やら木の箱を渡された。
箱の中には栗きんとん。
箱をみんなで回して、各々スプーンで好きな量をとった。
「ありがとうございます!美味しそう。これはどなたからですか?宮内さんのですか?」
「誰のかはわかんない!でもここに置いてあったんだ〜。」
うちの職場では、作りすぎた漬物とか、貰いすぎた果物など、みんなにお裾分けしたいものがある場合、休憩室のテーブルの1番端のスペースに置いておく。そうすると、昼休みに勝手にみんなが食べてくれて あっという間に片付くのだ。
でもいつも、漬物やおかず類は大きいお皿にあけてあるし、果物の場合は皮を剥いて切ってあり、いかにも「どうぞ」という感じで置いてある。
対して今日の栗きんとんは、封もあけずにそこに箱ごと置いてあっただけらしい。
「これって…ほんとに食べちゃっていいんですか?」
「えっ、でもいつものところに置いてあったよ!」
「誰かの私物が置いてあっただけってこと?」
「確かに…みんなで食べてっていうには少ない量ですよね。」
「でもさー?みんなで食べたら確かに少ないけど、一人で食べるには多すぎるでしょ。栗きんとんだよ?絶対みんなで分けてってことだよ!お正月に食べきれなくて持ってきたんだよ。誰かが!」
誰かがね…。
今さっき開封されたと思われる包装を見ると、品のある和紙に「栗きんとん」の文字が金色で印刷されていて、おまけに箱だって木でできてるし、見れば見るほど高級品のオーラを感じる。これがもしお裾分けのものでないのだとしたら申し訳なさすぎるし、私だったらこんな高そうなものを職場のみんなに分け与えるなんて真似はしない。
「高級品ぽいから鈴村さんちのじゃないですかね?」
「鈴村さん今日休みだよ」
持ち主すらもわからず不安だけど、かと言って既にスプーンですくってしまったものを返すこともできない。
私たちは美味しくいただくことにした。
すると、10分くらいして丸橋さんが入ってきた。
「あ〜みんな!栗きんとん食べてくれたのね〜!よかったよかった!」
「丸橋さんのだったんですね!よかった〜」
「朝、他部署の人に駐車場でもらったんだよ。家にいっぱいあって困ってるんだって。でもウチの家族も甘いもの食べないから、みんなに食べてもらおうと思って。急いでたからお皿にも移さず、分かりづらくてごめんねー」
分かりづらくても食べました〜と心の中で返した。
丸橋さんからの差し入れと知って、みんなで一安心した。安心した余裕のある気持ちでもう一口味わいたいなと思った。
あと自分の大事な食べ物は絶対に休憩室のテーブルの端に置かないようにしようと固く誓った。