梅村係長が新聞に載ることになった。
係長が新聞記者の人から取材を受けた記事が載るのではなく、専門分野のコラムを執筆してくれという依頼だったので、ここ数週間係長は記事の文章を推敲していた。
早くからとりかかっていたので、とりあえず今月の入稿には無事間に合ったようだ。
昨日の午後、そんな梅村係長に呼び止められた。
梅村「ちょっとキャンディ、あたしの写真撮ってくれない?」
記者の人は来ないので、当然顔写真も自分で撮影して送らなければいけないのだった。
梅村「綺麗に撮れるカメラって何かある?」
私のスマホにはB612とSNOWとUlikeの3種類の盛れるアプリが入っているので、試しにこれらを使って50代女性を撮ることに。
キャ「じゃあ…B612っていうアプリで撮ってみますね。はい、チーズ」
出来上がった写真を見ると、57歳の係長の顔には1点のシミもシワもなく、肌は白雪姫のような白さと艶、シュッと尖った顎、チワワのようにこぼれ落ちそうな大きく漆黒の瞳、頬もほのかに桜色に染まっていて、ちょっと笑ってしまった。係長本人はもっと笑っていた。
梅村「これを世間に晒すわけにはいかないね!普通のカメラで撮ろう!」
もうちょっと加工を強くして遊びたかったけど、一応仕事中なので大人しく普通のカメラを起動し撮影を再開した。
普通のカメラで撮った写真を見て係長は言う
梅村「んー、ちょっとこれじゃあ目が糸だよね。もう少しぱっちり開けて撮る」
梅村「これシワがさー、目立つよね。もう一回」
梅村「えー、そしたらやっぱり眼鏡かけて撮ろう。カモフラージュ」
梅村「なんか、、豚だよね。」
梅村さんが何か言うたびに私は「そんなことありません!美しいです〜」と九官鳥のように繰り返していた。
結局6枚くらい撮って、最後から2番目の写真にしぶしぶ決定した。
写真写りになかなか納得できないのはいくつになってもみんな一緒なんだな。
そして今日、昼休みを終えて部屋に戻ると、他部署の知らない男性が一眼レフを構えて何かを撮っていた。レンズの先には笑顔の係長がちょこんと座っていた。写真が趣味という人を見つけて引っ張り出してきたのだろう。
係長の執念を垣間見た。