私には週に何度か、地下労働が課せられている。
地下の薄暗い部屋に篭り、昼過ぎまで一人っきりで黙々と機械をいじって業務をこなしていく。
地下室の冬は極寒で、コートを持参して震えながら作業を進めていく様は網走監獄を思わせる。今年の冬は部屋が寒すぎて機械のエラー表示が出てしまったくらいだ。そんな環境下に人間を配置しないでほしい。
でも、冬の極寒さえなければ誰にも邪魔をされずに一人で黙々と仕事ができるノンストレスな空間であり、私は地下労働の日が実は大好きなのだ。
今日も地下当番だったので 一人黙々と機械を回していると、ドアの方から「すみません…」と遠慮がちな声がした。
振り返ってみると、そこには隣の地下室で働く桃田さんが立っていた。桃田さんは昨年度まで同じ部署で働いていたが、今年度の人事で隣の地下室の部署へと異動になったスタッフだ。
ちなみに言っておくが 地下労働=窓際職員ではない。電波や雑音の影響を避けたい業務が地下で行われているだけだ。
桃田さんはドアの横に立って 申し訳なさそうに私に尋ねてきた。
桃田「キャンディさん、この部屋は…お昼食べるスペースあります?」
キャ「お昼食べるスペース…ですか?」
桃田「今の部署の休憩部屋、たくさん人数いるのにとってもスペースが狭いんです。キャンディさんはお昼は自分の部署に帰られますよね?だからこちらのお部屋をお借りして食べてもいいかな…って」
キャ「あー、コロナ的に心配ってことですか?」
桃田「いや、まあー、それもあるけど…椅子を譲り合わないといけないので、10分くらいしか座れないんですよ。休憩なのにせわしなくて落ち着かないの…」
いやどんだけ狭いところに詰められてんだよ!
監獄みが増している
この部屋はスペースがないわけではないが…
デスクの上は、パソコンと機械の狭間に手のひら2枚分程度のスペースが確保できるくらい。
もしくは床飯になってしまう。
監獄だってちゃぶ台くらいは支給されるはず。もはや監獄以下の待遇である。
キャ「スペース、一応ありますけど…激狭ですよ?」
桃田「ほんとですか!?お借りしていいですか?」
キャ「いいですけど、弁当と水筒ギリ広がるスペースしかない」
桃田「いいんですいいんです、ありがとうございますー!」
こうして、ランチタイムの地下室レンタルが確約した。
12:00を回り業務を終えた私は、しばらくしたら弁当を持ってやってくる桃田さんのためにパソコンをちょっと後ろにずらして数cmばかりスペースを広げて部屋を後にした。
(桃田さんとこの休憩スペース…どんな狭いとこなんだろ、ちょっと覗いてみるか)
ちょうど隣の部屋なので、桃田さんとこの休憩スペースとやらを覗いてみた。
ついたての奥には、気が強くて有名なオバチャン事務軍団が、何やらヒソヒソ噂話で大盛り上がりしていた。
あー、
確かに居心地悪そうだねぇ〜
と、桃田さんの気苦労を察しつつ、私は地上の部署へと戻ったのだった。