私は毎年、節分の日はお昼に恵方巻きを食べる。人目もはばからず、しっかり恵方を向き、一言も喋らないようにむしゃむしゃ食べる。
そんな私に、
「ねえ!おいしい?おいしい?」
とか、
「ヒルナンデス面白そうだよ!見て!ほら!」
とか
「路線バスの旅のロケが来てるよ!」
とか、何とかして喋らせようとする外野に私が耐えるというイベントが地味に開催されてきた。
多分後輩の何人かには面倒くさいと思われている気がする。
まあそんなことは気にせず今日も例年通り張り切って恵方巻きを購入。
しかし今年はコロナで、昼休憩はみんなで時間をずらして来ているため、部屋には私ともう1人、秋山さんしかいなかった。
今年は邪魔する役がいないけど、普通にゆっくり食べるかーと思って恵方を向いてかじり始めた。
すると、
「あー!恵方巻きだ!いいねぇ〜。どこのやつ?」
秋山さんに話しかけられた。
例年なら無視するところだが、今は部屋に2人きり。ちょっと無視しづらい。あと秋山さんがふざけて話しかけているのか、それとも本当に質問してるのかよくわからなかったし。
「今から食べ始めるので話しかけないでくださいよ〜」
という前置きすらなく、いきなり食べ始めた私も悪い。
伝統的しきたりと先輩への礼儀、どっちをとるのか究極の2択を迫られた私。
「普通にコンビニのやつです」
私は礼儀を選んだ。
「恵方巻きって結構値段張るけどさー、コンビニのって500円くらいで買えるからお手頃だよねー」
普通に会話が続いた。秋山さんはふざけて喋らせようとしていたわけでなく、本当に普通に話しかけてくれたようだった。返事しといてよかった。
すると、横の部屋で歯を磨きながら一部始終を見ていた笠原さんが
「あんた…喋っていいの?」
と、ひょっこり顔を出して聞いてきた。
秋山「ああー!そっか!ごめん!普通に話しかけちゃったよ!」
キャ「大丈夫ですよ。私は日頃の行いが良いのでちょっとくらい」
私のこの発言のあと、2人とも何も言わなかったのはちょっと気になったが、今年も無事に昼の節分の儀を終えることができた。無病息災でありますように。