うちの職場では、年末の仕事納めの日に高級料亭の弁当をみんなで注文して食べる文化がある。
そして今年も御用納めの季節がやってきた。
休憩室に貼られた弁当注文表。
写真付きの弁当パンフレットを見ながら、各自自分の名前の横に、食べたい弁当の番号を記入していく。
注文表の下には、幹事の笠原さんの字で
※1人税込2500円以内のお弁当にしてください。
という注意書きが書かれていた。
「2500円スレスレのやつにするしかないよね。」
「せめて2000円台ですね。」
「どうせ俺たちの金だもんな」
と、みんなとにかく高いものを高いものをと、欲丸出しで弁当パンフレットとにらめっこしていた。
我々は部署内費用として 給料から毎月1000円天引きされている。職員に慶事があった場合のお祝い金や、休憩室のコーヒー・お菓子代、その他備品などといったものは、この積立金の中から捻出されている。
そして御用納めの弁当にもこのお金が使われているのだ。だから、なるべく高いものを頼まないともったいない。
私は、2300円の2段になった豪華め焼肉弁当に惹かれ、自分の名前の横にその番号を記入した。
その時、あることに気づいた。
「ねえねえ、7番書いてる人いる。」
7番の弁当は、一般的な幕の内弁当のような見た目で、美味しそうだが周りの弁当に比べると少し地味、そしてその価格も税込1100円と かなり安い。
「バカだなぁ。半額以上も損しちゃってるよ。誰?」
7番の弁当を選んでいたのは鈴村さんだった。
鈴村さんの旦那は開業医であり、家も広くて車はベンツ、毎年家族5人で海外旅行に行っており、超裕福な家庭である。トイプードルか何かも飼ってる。鈴村さんのお父様も弁護士さんで、もともとお嬢様育ちらしい。
ちなみに私たちは時々陰で鈴村財閥と呼んでいる。
鈴村財閥の人間は、部署内費用などというはした金の元を取ろうなんて全く気にしないのだ。2500円なんて金額は気にせず、今食べたいものを自由に食べようとする心の余裕があるのだ。
庶民たちの心に敗北の2文字が突き刺さった。
「誰か鈴村財閥に もっと高いの頼まないともったいないですよ!って言ってみる?」
「私は嫌です…」
私は、2450円の重箱弁当もある中で2300円の弁当に甘んじている辺り、ちょっと余裕を感じさせちゃうかなぁ〜などと思っていた自分を恥じた。
でも焼肉弁当は楽しみ。