私は最近、本気で結婚まで考えていた恋人に振られてしまった。
元彼は本当に仏のような心の持ち主で、私のようなしがないOLからその辺の虫まで、とにかく生きとし生けるもの全てに優しかった。曲がったことが大嫌いだけど、かといって頑固でもない。あらゆる面において世の中のお手本のような人間だった。
正直最初は、医者だし付き合ってみるか〜!っというノリだったが、優しく物知りで常識人な彼を知っていくうちに、心の底から彼のことが好きだと思えるようになった。彼の同僚とも何回かお会いする機会があったが、看護師さんや後輩の医者からもすごく慕われていて、人間的にも学術的にも技術的にも全てにおいて優れていた。
私はそんな彼のために、今年のバレンタインデーはハート料理を何品も作り、田舎道を走り回ってピエールエルメのチョコを手に入れ、目一杯のLOVE〜愛〜を伝えた。
来月のホワイトデーは、もうそろそろ指輪か〜?などと期待していた。
そして来る3/14、ウキウキの私に彼からのプレゼント。それは、
別れ話であった。
俺たちは、、合わないと思う
と言われた。
彼は日頃からお互いの小さなズレを感じていて、それが積み重なって大きな違和感として今、心の中にモヤモヤ現れてしまったのだと。
私は最後まで大泣きして説得し引き留めたけど無駄だった。彼の顔が完全に冷め切っていた。
あと、どれくらい好きだったかという程度の問題以外に、結婚の具体的な話まで出ていたかどうかでも別れの悲しみは変わると思った。私は正式なプロポーズこそされていないものの、2人でマンションを見に行ったり、私の転職先を探したりと、地味に準備みたいなことはしていたから、余計にショックが大きかった。
しかし、心のどこかで少しホッとした部分もあった。
彼の実家は祖父母、両親、兄弟、いとこ、叔父伯母、とにかく親戚一同代々医師の家系で、彼のお母さんは「医者以外の人間を嫁にとるなんて…!」などと言ってるタイプの人間らしい。
仮にそんな家に私が嫁いでも歓迎されるわけなんか100%ないし、姑や親戚との付き合いで死ぬまで窮屈な思いをするかもしれないし、恐らくそういうことを言う人は、フツーのサラリーマンである私の親に対しても差別的なことを言ってくるかもしれない。もしも親のことまで言われたら私は我慢できないと思うし、、、、、これでよかったんだ。
そう思うことにした。
しかし、そう言い聞かせても、やっぱりお別れは悲しい。
結婚する場合に起こりうる試練へのプレッシャーと、彼が好きだという気持ちは全く別問題だからだ。
私は泣きながら、この悲しさはしばらく引きずるだろうなと思った。
そしてそんな地獄のホワイトデーを経験した私にも容赦なく月曜日は襲ってくる。
とりあえず私は朝からとてつもない引きずり方をしていた。
まず、駐車場から職場までの道で号泣しながら歩いて出勤。仕事中もマスクを鼻水でびしゃびしゃにしながら泣き、泣き顔は見られたくないので、常にひとみばあさんくらい背を丸くして歩き、前の日から何も食べてないのにお昼はヨーグルトのみ。しかもそれを残す。口数もやたら少ない。
しかし、こんなにも様子がおかしい私に、誰も「どうしたの?」と聞いてくれない。
早く誰かに話したいのに。。
「キャンディならすぐ良い人見つかるよー!」
とか
「そんな家に嫁いでも良いことないよ!」
とか
「別れて正解だったよ!」
とか、
嘘でもなんでも良いからとにかく励まして欲しい。誰でも良い。
(もしやオーラがあまりにも暗すぎて話しかけづらいのかな?)
試しに休憩では少し顔を上げて座った。すると前に座っていた優子がホームパイをボリボリ食べながら、
優子「キャンディさん〜、ホワイトデー何もらったんですか!?」
と聞いてきた。
南海キャンディーズの山里さんがよく言う「スキップで地雷踏む」とはまさにこのことだと思った。
私は、石みたいな表情で優子の顔を3秒くらい見つめた後、石みたいな声で
「別れ話…」
と答えた。
優子「えっ、わ、別れ!?いやごめんごめんごめんごめんなさい!私地雷踏んじゃいました!」
キャ「スキップでね…」
優子「スキップで地雷て!でもまさにそれ!ごめんなさい!」
キャ「今の私は…カンボジアだから…」
優子「え??なに…?地雷がいっぱいってこと?」
キャ「そうよ…」
優子「。。。」
キャ「くれぐれも…気をつけて話しかけて…」
優子「。。。。。。。。」
結局この日は誰も何も私に話しかけてこなかった。